ブログ

大学と病院の労働法Q&A4(大学病院勤務医師の非番の日の出張)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Q&A4(大学病院勤務医師の非番の日の出張)
Q4:本学の附属病院では、救急部の医師に対して4週間単位(1箇月単位)の変形労働時間制をとっていますが、夜勤の後の非番の日の出張の取扱いについてご教示願います。
(1) 夜勤の後の非番の日に引き続いて、出張、研修等をさせることは可能ですか?
(2) 出張、研修等が可能な場合、その日の勤務時間の取扱いはどのようになりますか?

論点:Q4に関する主な論点として、①大学病院臨床系教員の勤務形態、②変形労働時間制における非番と時間外・休日勤務、③出張中の労働時間の取扱い等が挙げられます。回答に先立ち、まず、これらの論点について検討します。

論点①:大学病院の「医師」は、臨床系教員(教授、准教授、講師、助教)、医員、医員(研修医)等で構成されています。現在、臨床系教員のうち、教授、准教授、講師が、「教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)」に就いている場合には、当該業務を対象業務とする専門業務型裁量労働制が適用されます。
しかし、手術部、救急部、集中治療室等の中央診療施設や麻酔などでは、緊急時や夜間などを含め、常時、一定数の医師を確保する業務上の必要性から、交代制勤務や変形労働時間制等を取っていることが多く、当該部署に所属する医師については、講師以上であっても専門業務型裁量労働制を適用除外としていることが多いようです。
論点①大学病院臨床系教員の勤務形態に関して、Q4の医師は、救急部に所属し、勤務形態は4週間単位(1箇月単位)の変形労働時間制が適用されているので、裁量労働制は適用除外となります。

※ 病院の臨床教員に対する専門業務型裁量労働制の詳細は、本ブログの「大学と病院の労働法メモ1」を参照のこと。

論点②:次に論点②変形労働時間制における非番と時間外・休日勤務について検討します。
Q4の(1)で「 夜勤の後の非番の日に引き続いて」とあります。一般的に「非番」という言葉はよく用いますが、そもそも、どのような意味又は定義なのでしょうか。法律用語ではないので、使用される場面や職域で、意味合いに多少の幅があります。一般的な説明としては「交代制など、すべての労働者が一斉に出勤しない勤務体系において、退勤していて仕事をしなくてよいこと」で、具体的な事業場については、警察、消防及び病院などをイメージすれば分かりやすいかと思います。

それでは「非番」と「休日」の違いは何でしょうか。
労基法35条第1項で「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。」とあり、労基法の条文中に「休日」という用語そのものの定義はありません。労働基準法コンメンタール(平成22年版 厚生労働省労働基準局編)によると「休日とは、労働契約において労働義務がないとされている日をいう。」とありますが、これではまだ非番との違いは不明確です。

行政解釈では、休日とは、単なる継続24時間では足りず、午前0時から午後12時までの暦日をいうのが原則です(昭23.4.5基発535号昭63.3.14基発150号第35条関係273頁)。ただし、一部、番方編成(シフト勤務)による交替制勤務者については、一定の場合に継続24時間を休日として与えればさしつかえないとされています(昭63.3.14基発150号35条関係274頁平6.5.31基発第331号)。
従って、大学や病院においては、看護師の三交替のシフト勤務体制の場合を除き、原則どおり、暦日24時間の休業が休日となり、非番とは明確に区別されると思います(原則として、暦日ではない継続24時間の休業を与えた場合は非番となり、休日を付与したことにはなりません。暦日であることが原則的な休日の要件です。)。

論点③:次に論点③出張中の労働時間の取扱いですが、これに関しては通達(昭和23.3.17 基発461号・昭和33.2.13 基発90号)で「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別の指示がある場合の外は休日労働として取扱わなくても差支えない。」とされています。

考え方としては、「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質と考えられるから、当該所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起こりえないと解するのが相当である。(日本工業検査事件 横浜地裁川崎支部 昭49.1.26)」や「移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実勤務時間に当たると解するのは困難である(横河電気事件 東京地裁 平6.9.27)」などの判例を参考にすると腑に落ちやすいのではないかと思います。

A4:以上の論点解説のエヴィデンスを踏まえると、回答は自然に導き出せると思います。
(1) 夜勤の後の非番の日に引き続いて、出張等をさせることは可能です。
非番の日に通常の勤務を命じた場合は、時間外労働となりますが、出張等を命じた場合も同様に時間外労働の取扱いとなります。

(2) 論点③の解説のとおり、出張等に伴う移動時間は労働時間として取り扱いませんが、実務上の問題として、移動時間を含む一連の出張に伴う時間外労働について、職員からの自主申告によるのか、大学等機関側が移動時間(時刻表に基づいて算定した標準時間等)を控除するのか、取扱い上、不分明な事項については、あらかじめ、就業規則の細則等で定めておく必要もあります。ただ、あまりにもレア・ケースと考えられる場合は、規則等が煩雑になることもあり、一考を要します。

大学病院の医師(臨床系教員)などの場合、診療や研究打合せなどで関連病院へ出張等することは、決して、レア・ケースではないものと思われます。裁量労働制が適用されている医師(臨床系教員)の場合は、特に問題は生じませんが、今回のように、裁量労働制が適用除外となっていて、非番の日に、出張その他の1日単位程度のまとまった勤務が生じることがある場合は、「変形労働時間制における勤務指定後の労働時間の変更」の取扱いについて、就業規則で定めておくことも一つの方法です(法人化前の大学で行っていた「勤務時間の割振り変更」などが参考になると思います。)。

この「変形労働時間制における勤務指定後の労働時間の変更」については、判例で「就業規則上、労働者の生活に対して大きな不利益を及ぼすことのないような内容の変更条項を定めることは、同条が特定を要求した趣旨に反しないものというべきであるし、他面、就業規則に具体的変更事由を記載した変更条項を置き、当該変更条項に基づいて労働時間を変更するのは、就業規則の定めによって労働時間を特定することを求める労基法32条の2の文理面にも反しないもの」されていますので、十分、検討に値するものと思われます。(JR東日本(横浜土木技術センター)事件 東京地判 平12.4.27JR西日本(広島支社)事件 広島高判 平14.6.25

関連記事

最新の記事

  1. 大学と病院の労働法Q&A5(兼業の許可の制限時間と36協定等)Q5:本学では、兼業の許可...
  2. Q&A4(大学病院勤務医師の非番の日の出張)Q4:本学の附属病院では、救急部の医師に対し...
  3. 平成27年5月23日(土)に京都駅前のホテル・セントノーム京都で開催された、NPO法人「あったかサポ...

電話でのご連絡はこちらへどうぞ